航空機用高寿命ロータリーダンパーSR3|開発ストーリー

Soft close aircraft lavatory door

当社が開発した航空機用ロータリーダンパーは、高寿命で航空機のトイレ用ドアへの使用を想定して開発した製品です。一般に、航空機用の部品は管理が厳しく、頻繁なメンテナンスが難しい上に、ロータリーダンパーにおいては、気圧変動による性能変化がないように設計する必要がありました。

つまり、従来のロータリーダンパーにはない高い耐久性と気圧変動の対応が航空機用途特有の仕様として求められたため、TOKでは、新たに航空機用のロータリーダンパー開発に着手し、量産化しました。

今回は、高耐久で、気圧変動にも対応した、ハイエンドロータリーダンパーSR3の開発ストーリーとその特長をご紹介します。

Rotary damper SR3

ロータリーダンパーは、航空機に備え付けられているトイレのドア閉止を緩衝する装置として従来から搭載されており、ドアから手を放したときにロータリーダンパーが機能して、ゆっくりと、且つ、周囲に音が響くことなく静かにドアを閉めることに貢献しています。

本件の開発は、お客様が他社製ロータリーダンパーの生産終了情報を入手され、当社での開発可否を相談してくださったのがきっかけでした。当社は、自社ノウハウを投入しつつ、試作を繰り返し、高い耐久性と、気圧変動に対応する調圧機能を備えた新製品開発に挑戦し、実現した製品が、SR3です。

検討段階において要求された仕様は以下の通りです。
・トルク(1.0Nm)
・高寿命(耐久30万回開閉)
・気圧変動の影響を解消する調圧機能
・リードタイム短縮
・既存製品と組み換え可能な外観形状

これらの要求事項に対し、高寿命、調圧機能、リードタイム短縮、取り付け形状が難易度の高い課題となりました。加えて、既存品の特許抵触を回避する必要がありました。
次章では、詳しくそれぞれの設計課題について解説いたします。

ロータリーダンパーの課題1 高寿命

SR3 Durability

TOKで生産するロータリーダンパーは5万回開閉が一般的な耐久基準で、今回の開閉回数30万回という要求は、通常のロータリーダンパーの6倍にあたります。

要求に応えるため、試作段階では耐久性能を確認しながら部品の形状変更を繰り返し行いました。ロータリーダンパーの耐久性を高める為には、内部機構の摩耗を促進させないことが最も効果的であり、従来品のダイカスト製ロータリーダンパーでは、内部機構の摩耗が著しい箇所のみ摺動部材を介在させて摩耗を防いでいました。今回開発した航空機用ロータリーダンパーにおいては、摩耗の可能性がある全ての摺動箇所に摺動部材を介在させて耐久性を向上させました。更に、アキュムレーター機能(オイルが一定圧力を超えた時にダンパー内部の体積を増やしてオイルを逃がす機能)を内蔵し、ドアが強制的に閉められた場合でもダンパー内圧を自動的に最適化する構造が、高寿命実現の要素となりました。

ロータリーダンパーの課題2 調圧機能

Accumulator

飛行中の客室内の気圧が、地上とは異なることは既に体験済みであることでしょう。ロータリーダンパーも同様に気圧の影響を受け、地上での使用は問題なくても、上空ではダンパー内の残留エアーが膨張して、ロータリーダンパーの回転抵抗が増加してドアがなかなか閉まらなくなる可能性、若しくは、ロータリーダンパーのハウジングが割れてドアがダンパー機能を失ってしまう可能性を秘めています。このような懸念を回避する手段として、ロータリーダンパーの内圧を地上同様に維持させる為の調圧機能が必要でしたが、この調圧機能は、先述のアキュムレーター機能で賄うことが出来ました。

アキュムレーター機能の導入にあたっては、極力既存品同等の機能を持ちつつ他社所有の特許に抵触しないように、ダンパー内部に封入したオイルの流路設計を変更する必要がありました。優れた調圧機構を実現する為、既存製品のオイル流動を解析しつつ機構を検討し、試行錯誤に4か月を費やしました。

ロータリーダンパーの課題3 リードタイム短縮

Lead time to ship

既存品は全ての部品を切削加工で製作していましたが、TOKではいくつかの部品を金型で生産することによって、リードタイムの短縮を図りました。切削品の場合は、1個ずつ製作する必要がありますが、金型による量産は、複雑な形状の部品を短時間で多数生産出来るため、リードタイムの短縮に大きく貢献出来ました。ただし、金型による生産となると、切削加工時と同じ材料は使えません。代わりとなる材質を検討する過程では、部品が壊れ、直すとまた別の部品が壊れるという不具合連鎖があり、肉厚や材料を最適化して30万回の耐久に成功するまでに1年かかりました。

ロータリーダンパーの課題4 取り付け形状

Dimensions

外観形状は既存品と同形状であることが求められたため、取り付け形状も底面に4か所のネジ穴が必須となりました。ネジの締結力確保のためには、一定のネジ穴深さが必要となるため、ロータリーダンパーに必要な内部(ダンパー室)スペースの確保に制約が出来、十分なトルクを確保するための設計が難しくなりましたが、ダンパー室を極力広く持ち、肉厚を最適化することで、取り付け形状を既存品同等にすることに成功しました。

今回ご紹介したSR3は、こちらの動画でもご覧いただけます。

航空機用高寿命ロータリーダンパーSR3|開発ストーリー まとめ

今回は、航空機用ロータリーダンパーの開発ストーリーをご紹介いたしました。ロータリーダンパーにとって、航空機への適用は従来よりも過酷な要求仕様となるため、設計が固まるまでに相当の試行錯誤がありました。この苦労の中で誕生したロータリーダンパーSR3は、高寿命と気圧変動に対応する機能が従来にない特長となりました。
本案件のように、従来品では要求を満たせない場合でも、新規設計で実現することが可能なことが多々ございますので、従来品では実用に当てはまらないときには、是非お声かけ頂けますと幸いです。

なお、初期の設計検討にあたりましては、トルクの計算が出来るページをご用意しておりますのでご活用ください。ご検討・ご相談がございましたら、こちらのフォームよりご連絡ください。

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